映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」は2023年に制作された青春映画となっています。
大前粟生の小説「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」の映画化作品として高い注目を集めています。
本記事では、映画のあらすじ、キャスト、見どころ、ネタバレ感想などについてご紹介します。
映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」解説
キャスト・スタッフ
キャスト
- 細田佳央太:七森剛志
- 駒井蓮:麦戸美海子
- 新谷ゆづみ:白城ゆい
- 細川岳:鱈山
- 真魚:光咲
- 上大迫祐希:藤尾
- 若杉凩:西村
スタッフ
- 監督:金子由里奈
- 原作:大前粟生
- 脚本:金子鈴幸・金子由里奈
- 音楽:ジョンのサン
- 主題歌 :わがつま
- プロデューサー:髭野純
- 撮影:平見優子
- 助監督:中村幸貴
- 編集:大川景子
あらすじ・解説
映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」の舞台は京都にあるとある大学となっています。
本作「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」の主人公である少年の七森は、同級生の女子生徒からプロポーズを受けるなど、見た目は優れているものの、いわゆる男らしさ・女らしさといった固定観念については内心苦手意識を抱いたいわゆるフェミ男でした。
京都の大学に進学することとなった七森は大学の入学式で出会った1回生の麦戸美海子と知り合い、彼女とともに「ぬいぐるみサークル」に入りました。
この「ぬいぐるみサークル」というのは、自身が所持しているぬいぐるみにメンバーが話しかけるという一見、一風変わった奇人変人ばかりが集まるものの、優しい人の多いからか、七森にとっては居心地のいいサークルとなっていました。
七森はこのサークルで活動していくうちに、次第にいっしょにサークルに入ったものの人形としゃべらない白城ゆいと出会い、彼女と恋仲になるものの…やがて次第に彼女との関係にも亀裂が入っていくのでした。
映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」ネタバレ感想
本作は、傷つくことを恐れる近年の若者たちの青春を描いた青春ドラマ映画となっています。
「ぬいぐるみを作って批評しあうサークル」と思いきや、まさかぬいぐるみとおしゃべりするサークルだったというのは少し意外でした。
このように書くと精神的にどこかおかしいのではないかと疑いますが、なんと実はそうではなく、世の中にあふれる不愉快な情報やニュースなどにストレスを感じたり、繊細で心が弱すぎるために、自分自身を守るために、あるいは発言や自分自ら発信する事を極端に恐れ、ぬいぐるみにかわりにしゃべらせることで自己防衛をしているといったものであったりします。
例えば、遠くの国で起きている悲惨な戦争の話題に心を痛めたり、目の前でおきている痴漢を止められなかったことに傷ついたりしていくことで、ぬいぐるみに逃避をしていくこととなっていくわけです。
つまり、ぬいぐるみと会話しているようにみえて、実は会話をしていないというまさしく一方通行のようなものです。
このように書くと、ねじれたいびつな構図にみえるかもしれませんが、これをもしも「ぬいぐるみ」という言葉「SNSのアカウント」に変えてしまうと、これは現代でよく見る光景に変化をしていきます。
本作はつまるところ、SNSでの会話に依存し、徐々に自閉的・閉鎖的なコミュニティにひきこもっていく現在の若者の姿をある意味風刺した作品となっています。
本作では最終的に、この居心地のいい「ぬいサー」に引きこもることがいいのか悪いのか、外の世界に出て人とぶつかり合った方がいいのではないかといった事に気が付いてしまう部員が出てくるなど、徐々に「ぬいサー」からの脱却を図ろうとしたり、さらには部員のメンバーのなかには自分がぬいぐるみの代わりになるといったことを言い出すものも出てきます。
また、自身の男らしさを否定していた主人公の七森自身も友人に「童貞なんだろ」とバカにされたことで喧嘩をしてしまい、自身に秘めたる暴力=男らしさに気が付いてしまうという展開もあります。
このように、いくら「ぬいぐるみと話す」という行為で逃避をしていても、結局つらい現実から逃げることはできない、といった苦しい内容の青春映画でもあります。
そんな本作ですが、監督を務めている金子由里奈さんは、90-00年代にかけて「平成ガメラ三部作」や「ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃」の監督を務めた金子修介監督の娘さんでありました。
金子修介監督といえば「平成ガメラ三部作」の二作目「ガメラ2」では自衛隊が宇宙怪獣相手にガメラと共闘する姿や「平成ガメラ三部作」の三作目「ガメラ3」では怪獣であるガメラに殺される人類などを真正面から描いた人物としても有名で、「ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃」では人類を直に攻撃して破壊と虐殺に酔いしれるゴジラという全シリーズでも屈指の迫力のある「白目ゴジラ」を描いた人物としても有名なのですが、娘さんである金子由里奈さんは繊細な作風を得意とされていることがわかりますね。
映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」深いポイント
本作「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」では様々な深いと感じるポイントが多くあります。
今回は、個人的に本作について『深い』と感じたポイントについてご説明します。
①心地良いコミュニティに引きこもることはいいのかという点
本作では様々な繊細な若者が『繊細』であることについて肯定も否定もしないぬいぐるみと話すサークルのなかで引きこもっていく姿が描かれます。
そこでは、ぬいぐるみと話すことで自らの心の内を明かさなくてもいいようになっています。
また一応ルールとしては、『盗み聞きしない』というものがあり、ぬいぐるみと話すことに依存することで、他人とかかわりをもたなくてもいいようになっています。
しかし、それは『社会とのかかわりを断つ』という物に近いものがあります。
本作では一見、繊細な人間ばかりのぬいぐるみサークルの存在を描き、そこで引きこもることは果たしていいことなのだろうかと、ある意味では疑問をなげかけています。
②白城ゆいというイレギュラー
本作では白城ゆいというキャラが登場します。
この白城ゆいは、主人公たちと同じぬいぐるみサークルに入っていますが、それと同時に別のイベントサークルとの掛け持ちをしています。
そんな彼女はぬいぐるみサークルの他のメンバーとは違いぬいぐるみと話をしなかったり、他のメンバーと積極的にコミュニケーションを図ろうとしています。
ある部分からみれば、彼女は自身にとって都合のいい世界にひきこもるぬいぐるみサークルのメンバーを現実に引き戻そうとしている…という風に見えますが、本当に正常な人間であればわざわざそのようなことをする必要がありません。
例えば、駅前で独り言を叫んでいるホームレスの人に「現実を観ろ」と説教する人間がいれば誰もが異常と思うでしょう。
白城ゆいというキャラはそういったある種の異常者に対して説教をするさらなる異常者であると本作ではうっすらと描いている可能性があります。
恐らく彼女も一種の変人であり、彼女自身も心に闇がある。
繊細なタッチに見えますが、本作の本質はサイコ・ホラーであるのかもしれません。
③SNSで現実を逃避する若者などへの風刺
本作では、ぬいぐるみと話すことで、その繊細な自分を否定しない世界に引きこもっていく若者たちの姿が描かれています。
上記でも書いたように、これはある意味ではSNSなどで好きな話題をつぶやくフォロワー同士とのコミュニケーションに依存する若者たちへの風刺にも似ています。
繊細過ぎることを免罪符に、現実を否定しSNSなどに逃げ込んでいくそんな若者たちに現実はそうではなく、そこに引きこもるだけではいけないという製作者からのメッセージのようにもみえます。
映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」口コミ
非常に面白い映画でしたが、本作の登場人物のほとんどにはあまり同情の感情がわきませんでした。ぬいぐるみに悩みを打ち明けるといいますが、仮にぬいぐるみの気持ちになれば一方的に話してきて悩みを打ち明けるという名前の加害を行ってくる人間はやはり好きにはなれないのではないでしょうか。自分の周囲にも自分の意見だけを一方的にわめきちらし、自分だけ気持ちよくなっていく人が多くいるのですが、もしかしたらぬいぐるみからすれば、このサークルの登場人物たちは、みんなそういう風にみえてしまうのかもしれないなとゾッとしました。
本作に登場する人間たちは優しすぎるため他人に厳しいことがいえないので、ぬいぐるみを通してそれを解消するという人間たちの青春映画となっていました。優しいというのは一見、人間の素晴らしい部分にみえますが、それもいきすぎると自分に対する毒に近いものとなってしまう。『優しさ』って何なんだろうなと思いました。人に優しすぎるのも人に優しい場所にいすぎるのも実はよくないのかもしれません。この映画をみて「優しい」ってなんなんだろうなとおもいました。
自分も人と比べるとコミュ障なので、主人公たちの気持ちがわかるところがありますが、個人的にここまでいけばある種の病気なのではないかと感じました。人はしょせん動物であり、動物同士が集まれば傷つけあうのも当然で、そこを避けて人形に依存するのはある種の現実逃避なのではないかと考えました。とここまで考えてしまうあたりまだ私はコミュ障としてのステージが低いのではないか…と考えました(笑)。そういう意味で言えばいい映画であったのかなと思います。
まとめ
「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」は他人を傷つけることを極度に恐れる現代の若者たちの青春映画となっています。
他人を傷つけることを極度に恐れてしまうだけでは前に進めないというポジティブなメッセージにあふれた作品となっています。
また本作は『平成ガメラ三部作』や『ゴジラモスラキングギドラ大怪獣総攻撃』の監督である金子修介の娘さんである金子由里奈さんの初監督作品となっていますので、怪獣映画ファンはぜひ見てください。
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